相続放棄後であっても、相続財産を管理する必要がある

相続放棄をした効果として、初めから相続人でなかったことになります。

初めから相続人でなくなるので、次順位の相続人が相続財産を引き継ぐことになります。

そのため、相続放棄をした者の手元にある相続財産は、次順位の相続人に引き渡さなければなりません。

注意すべき点は、相続財産を次順位の相続人に引き渡すまで、相続放棄をした者が管理を継続する必要があります。

民法940条

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

次順位の相続人が存在しない兄弟姉妹が相続放棄した場合はどうなるのでしょうか?

その場合は、相続放棄していない兄弟姉妹に相続財産を引き渡さなければなりません。

相続人全員が相続放棄した場合、最後に相続放棄した相続人は相続財産を管理し続けなければなりません。

また、民法940条の「自己の財産におけるのと同一の注意」とは、管理義務の程度を表しています。

他人の財産を管理する程の義務は課されていないことを意味します。

具体的に相続財産をどの程度まで管理すれば良いのかについては、個々の判例を参考に検討していく必要があります。

適切に管理しなかった場合に起こりうるリスク

法定単純承認となってしまうリスク

相続人が、相続放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費した場合は、単純承認と扱われてしまうことがあるので注意が必要です。

民法921条

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

三  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

裁判所の見解によると「隠匿」とは、「相続人が被相続人の債権者等にとって相続財産の全部又は一部について、その所在を不明にする行為」であるとされています。

一定の財産的価値を有する財産を持ち去る行為は「隠匿」に該当する可能性が高いのでご注意下さい。

また「私に消費」とは、相続財産を処分して原形の価値を失わせることを言います。

もっとも、相続財産を処分して原型の価値を失わせる行為すべてが「私に消費」に該当するわけではありません。

財産的価値の無い家財を処分してしまった場合でも、「私に消費」に該当しないとした判例があります。

損害賠償請求されるリスク

相続財産の管理を怠った結果、財産価値が減少し債権者が債権を回収できなくなった場合、債権者から損害賠償請求をされる可能性がございます。

また、相続財産の管理を怠った結果、壁が倒壊し、下敷きになった被害者がいる場合、被害者から損害賠償請求される可能性がございます。

他にも様々な場面が想定できますが、管理を怠る期間が延びるほどリスクは高くなります。

相続放棄した者が管理責任を免れる方法

次順位の相続人に相続財産を引渡す

民法940条の記載の通り、次順位の相続人に相続財産を引き渡せば、管理責任から解放されます。

そのため、相続放棄後すみやかに次順位の相続人に相続財産を引き渡すことをお勧めします。

相続財産管理人を選任する

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は「法人」となります。

この場合、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産管理人を選任しなければならないとされています。

申立が出来る「利害関係人」には、相続放棄した者も含まれると考えます。

もっとも、相続財産管理人の選任申立の際に予納金を収める必要がある場合も多く、予納金だけで100万円掛かるケースもございます。

あらかじめ司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。