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相続財産を使ってしまうと相続放棄が出来なくなるの?
「相続放棄したいが、亡くなった夫の本を処分してしまった…」
「形見分けをしてしまったけど、相続放棄できるのかな?」
このようなお話をよく耳にします。
被相続人が大きな借金を残して亡くなってしまった場合、特に気になる疑問だと思います。
実は、民法921条1項2項にこのような記載があります。
【民法921条1項2項 】
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
① 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
単純承認とは、その名前の通り、被相続人の全財産を全部相続することを単純に認めた(承認)という意味です。
つまり、被相続人の借金も相続したということになります。
それでは、どのような場合に単純承認となってしまうのか、確認していきましょう。
①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
まずは民法912条1項からです。
「処分した」とは、分かりやすい例では、相続財産である不動産を売却したり、預金を下ろして自分のお金として使ってしまった場合です。
こういった行為をすると、相続財産を相続したと認める行為に等しいよねということで、単純承認となります。
ちなみに、単純承認とみなすと法律で定められた行為なので、「法定単純承認」と言います。
ここで、実際のご相談の中で特に多いのが下記2点のような質問です。
(1)すでに形見分けをしてしまったけど相続放棄できるの?
(2)葬式費用にあてるため、被相続人の口座から現金を下ろして使ってしまったけど、相続放棄できるの?
上記(1)について、常識の範囲内での形見分けは、基本的に「処分した」に該当しません。
この、常識の範囲内か範囲外かの判断が難しいところですよね…
ここで、2つ判例を参照してみます。
既に交換価値を失う程度に着古したボロの上着とズボンを元使用人に与えても、一般的経済価値があるものの処分ではなく、民法第921条1号に該当しない。(東京高決昭和37年7月19日東高民時報13巻7号117頁)
不動産、商品、衣類等が相当多額にあった訴外Aの相続財産の内より、僅かに形見の趣旨で背広上下、冬オーバー、スプリングコートと訴外Aの位牌を別けて貰って持ちり~中略~、これが民法第921条1号の処分にあたると考えることはできない。(山口地徳山支判昭和40年5月13被家月18巻6号167頁)
なかなか昔の判例ですが、一定の財産的な価値のある遺品を貰ってしまうと危ないということですね。
次に(2)ですが、葬儀費用に使ってしまった場合に「処分」には当たらないと判断した判例があります。
ただこれも、判例の事例ごとに背景事情が異なりますので、場合によっては逆の結論になる可能性もあります。
②相続人が所定の期間内に相続の放棄しなかったとき
続いて民法912条2項です。
相続放棄は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません。
この期間を過ぎてしまうと相続放棄・限定承認が出来なくなるので、結果的に単純承認したということになります。
特に財産の調査に時間が掛かっている場合、3か月過ぎないように注意してください。
まとめ
相続放棄が出来なくなる場合についてまとめました。
相続放棄と言えど、しても良いこと、してはまずいことがあり、判断が難しい行為が多々ございます。
そのため、とりあえず早い段階で司法書士などの専門家にご相談していただくことをお勧めします。
当事務所は相続放棄手続きを得意としておりますので、是非ご相談ください。
※ 分かりやすくするため、正確性に欠ける表現が含まれていることはあらかじめご了承ください。